仕上げ技術
仕上げ技術2010年1月号
このQ&Aは、工文社「月刊建築仕上げ技術」2010年1月号に掲載した「専門工事業者のためのマンション改修工事Q&A」に今回若干の手を入れたものです。
田村哲夫(NPO集改センター代表理事)
質問
管理会社の社員ですが、これからはマンション大規模修繕工事を積極的に請けていくという会社の方針にしたがって営業拡大に努力しているものです。
いままでは長い間多くのマンションの管理フロントとして管理組合に接してきましたので、マンションのことや管理組合のことについてはおおよそわかってはいるつもりですが、先日、設計の先生に、まずヒアリングに残ること、そしてヒアリングに勝ち残ることといわれました。
具体的になにをがんばればよいのかよく理解できていません。
一応、マンション管理士と管理業務主任者の国家試験は受かっています。
漠然とした質問で申し訳ありませんがぜひともお知恵を拝借したいと思います。
回答
まずは、なによりも、新しいことに挑戦する姿勢に敬意を表します。
きっと、いままでにもいろいろな場面で新しい経験を積んでご自分のスキルを高めてこられたのだと推察いたします。
さて、マンション大規模修繕(改修)工事の工事業者になるためには、「業者公募を経て書類選考で見積り業者に選定されること」「見積り参加業者の中からヒアリング業者に選抜されること」そして、「ヒアリング業者の中から工事請負契約業者として選ばれること」の3段階をクリアーしなければなりません。
しかし、それらの段階がすべていつも同じかというとそうではないでしょう。
管理組合の意向や設計コンサルタントの進め方によって違いがあります。
でも多少違いがあるにしても用意しなければならないことにそれほど大きな差はないでしょう。
まず、書類選考ですが、これは、知恵を絞ってアイデアが出てくるといった類のものではありません。
会社データバンクの点数を上げたり、同種工事の経歴を増やしたりするのも一朝一夕にできることではありません。
ここで大切なのは、それらの経歴をどのように見やすく理解しやすいものにするか、ということです。
常日頃から、要求される書類に対応できるように経歴の整理をしておきましょう。
マンション管理組合によっては、同規模の仕事をどれくらいしているかとか、近くに見に行くことができる工事済みマンションがあるかとかが気になるところです。
また、年間売り上げ額の何パーセントがマンション改修工事なのかの統計も用意しておくと良いでしょう。
次に、見積り業者の中からヒアリング業者に選抜してもらうのにどうすればよいかということになりますが、これは次の2点でしょう。
ひとつは、「総額が安い見積書を作る」こと、もうひとつは「仕様書をよく読みこんだ内訳明細書を作る」ことです。
この段階で筆者が出すアイデアは特にありません。
さて最後の、ヒアリングをどのように受けるかが大きな問題です。
ヒアリングは一般に時間が決められていて、用意する内容も指定されています。
ですからまずは指定された書類を、いかに見やすく整ったものにするかです。
会社案内や経歴書など、あれもこれもいれたくなるかもしれませんが、与えられた時間内に説明できることは大して多くはありません。
もともと、用意したものをすべて口答で説明するのは無理な話です。
ページ数を明記して、どんどんページを繰って、アピールしたいことをピックアップしてコンパクトな説明を心がけてください。
ただし、管理組合からの質問があらかじめ通知されているならば、その順に的確に回答していくことを忘れないようにしてください。
そして、その上で、ぜひアピールしたいことを、口答だけでなく具体的な資料に基づいて説明してください。
たとえば、似たような規模のほかのマンションで使った「工事説明会用資料」や「工事用掲示板の写真」などが「わかりやすい説明ができる工事業者」を表すものとして適当かもしれません。
まだ経験が少なければ、なかなかこれぞという資料がまだ手元に用意できないかもしれませんが、そんなときに役立つのが、他社の進んだ具体例です。
工事説明会用の配布資料は、全戸配布が原則です。
いろいろな人間関係を使って、ぜひとも先進例を入手して研究してください。
先進工事業者はそれなりに経験を積んできています。
きっと役に立つはずです。
それらの資料を、管理組合目線と説明側目線の双方から点検して、自社のオリジナルの配布資料を作成し、ぜひとも社内でリハーサルをして本番に備えてください。
「マンション管理士」と「管理業務主任者」の資格を持っていらっしゃるとのことですから、マンション管理組合というものがなんであるかについての知識は十分持ち合わせていらっしゃると思います。
工事業者がアピールしたい点を明確にすることです。
ゆっくりはっきりと具体例を見せながら、専門用語を使わないで説明して、誠意をもって工事に当たる姿勢をアピールしてみてください。
なんでもそうですがとにかく経験を5回積めば、要領は会得できるのではないでしょうか。そして、ひとりではなくチームを組んでがんばってみてください。管理組合もチームワークが大切です。工事業者にもチームワークが求められています。
仕上げ技術2010年2月号
このQ&Aは、工文社「月刊建築仕上げ技術」2010年2月号に掲載した「専門工事業者のためのマンション改修工事Q&A」に今回若干の手を入れたものです。
田村哲夫(NPO集改センター代表理事)
質問
私はマンション大規模改修工事の現場を担当しているものですが、工事監理の先生が、管理組合からどのような業務を受託されているのかをもっと知っておきたいと思います。
工事監理については、新築でも改修でも同じことだと思うのですが、マンション管理組合相手の仕事の場合、一般的な工事監理業務のほかにもいろいろな業務があるのではないかと思います。
大規模工事の企画の段階からのいろいろな業務を教えていただけるとありがたいです。よろしくお願いします。
回答
マンション大規模改修工事のコンサルタントの業務は、当然、工事業者が決定する以前から、管理組合のみなさんと協議を重ねていろいろな業務を行っています。でも、工事業者の目から見れば、工事業者決定以前のことは確かによくわからないかもしれませんね。工事業者決定までにどのような業務を管理組合さんと進めていたのかを知っておいていただくのは良いことだと思います。では、業務の発生順に説明していくことにします。
①「建物観察と報告」
建物を観察して現状を把握し、現場や写真画面を利用して説明を行い今回必要な工事内容を管理組合に提案します。
②「住民アンケート案の作成と集計報告」
不具合個所の把握や工事希望に関する住民アンケート文案を作成し、改修必要箇所の希望を尋ねたりどのような工事が期待されているかを把握したりします。
③「見積り依頼書作成」
複数の工事業者に見積りを依頼する際の注意事項や条件をまとめます。
④「設計図書作成」
マンション大規模改修工事では、新築の設計とは異なり、建物がそこにあるので、あらためて図面を書くのは、新規工事個所に関する図面のみとなります。一般には、「当初の竣工図面」と「仕様書」と「内訳書」を準備して、設計図書としてまとめた上で、見積り参加業者に手渡して見積りを依頼します。
⑤「内訳書作成」
工事個所・工事内容(材料や工法)と数量を表にまとめます。「仕様書とこの内訳書があれば見積りが可能になる」と管理組合さんに説明します。部位別(屋上・外壁・バルコニー・廊下・階段・外回り)の内訳書が管理組合にもわかりやすいのでおすすめしています。なお、今回工事施工を行わない部分についても項目挙げをして「今回は工事しない」旨を記しておくようにしています。内訳書作成業務は設計業務の中のメインの仕事です。
数量拾いも大変日数のかかる仕事です。前の大規模工事の資料がきちんとしていれば参考になることもありますがあまりあてにはなりません。参考になる場合は、もちろんコンサルタントの業務は楽になります。
⑥「設計者工事概算」
前述の内訳書に単価をいれて工事合計金額を計算したものです。見積り参加業者から提出された見積りをチェックする際の元材料になります。なお、この数字が独り歩きすると、見積り参加業者の見積り額に影響するかもしれませんので、提出時期については慎重さが求められます。
⑦「工事業者選定補助」
見積りに参加したい工事業者を公募する際の「公募文案」を作成します。そして、応募してきた工事業者の「社会的評価」や「実績等」をまとめた表を作成します。作成した表をもとに、管理組合に、見積り参加業者を選抜してもらいます。このときに、会社名を記号化して、選抜する方法を公平な選抜方法として管理組合にお勧めしています。
見積り参加工事業者を選抜したら、それらの工事業者に「見積り依頼書」「仕様書」「内訳書」を渡して見積り作業に入ってもらいます。次に、現場観察の要領なども連絡します。各社からの質疑に対して、統一回答書を作成して工事業者に渡します。
見積りが上がってきたら、管理組合の皆さんが比較検討しやすいように比較表やグラフを作成します。また見積りが設計意図を読み込んだものであるかどうかについてのコメントをすることもあります。誤解があれば大変です。
見積り参加業者の比較検討が終われば、ヒアリン参加業者を管理組合に選抜していただき、該当工事業者にヒアリング要領の連絡を入れます。ヒアリングに立会い、工事業者選定のための補助業務を終えます。
あくまでも、決定主体は管理組合ですので、比較検討作業がスムーズにできるような準備をするのがコンサルタントの業務になります。
⑧「総会議案書文案作成」
管理組合で独自に作成されることもありますが、工事関係の議案書作成のお手伝いをすることもあります。
⑨「総会立ち会い」
管理組合総会にはオブザーバーとして参加して、理事会への質問に対する回答をお手伝いすることもあります。
ここからあとは工事業者にも関係することになります。
⑩「工事請負契約立ち会い」
工事請負契約の契約当事者は管理組合と工事業者ですが「工事監理者」として記名押印します。なお、契約書作成についても、調整作業を行います。
⑪「工事監理」
一般に使用される「民間工事請負約款」の場合、その第9条に「工事監理者の業務」が記されていますが、簡単に言うと、工事契約通りに工事が進捗しているかどうかをチェックする役目です。一般には、週に一回、工事業者と工程会議をおこない、月に一度程度管理組合・工事業者・工事監理者の三者で進捗報告会議を行います。それ以外にも、工事の進捗に合わせて、工事状況を観察します。工事がすべて完了し、引渡し文書の確認を行った後、引渡しに立ち会います。工事監理の完了報告も兼ねることが多いですが別に行うこともあります。
以上のような業務がありますが、これらの業務を進めていくために、管理組合(理事会あるいは専門委員会)と月に一度程度の理事会あるいは委員会をおこなっています。このスケジュールを作成するのもコンサルタントの大きな仕事です。コンサルタント契約をしてから工事竣工までに20~24か月かかるのが通例です。
仕上げ技術2010年3月号
このQ&Aは、工文社「月刊建築仕上げ技術」2010年3月号に掲載した「専門工事業者のためのマンション改修工事Q&A」に今回若干の手を入れたものです。
田村哲夫(NPO集改センター代表理事)
質問
マンションの大規模修繕工事の現場監督をしています。
最近は現場でパソコンを使うことが増えて、わが社でも一人1台のノートパソコンが支給されています。
そして、管理組合の修繕委員長や工事監理者の先生などとも電子メールでやり取りすることが当たり前の時代になってきています。
ところで、これだけパソコン環境が充実してくると、もっとほかのことに使えないかといろいろ考えるのですが、他社ではどのようなことにパソコンを利用しているのでしょうか?
ご存知の例があれば教えてください。
回答
工事業者決めのためのヒアリングや工事説明会の場でパワーポイントを使用するのはいまでは定番になってきましたが、最近ではパワーポイントの使い方もなかなか凝ってきています。
そのマンション建物の映像に足場が掛かるシミュレーション画面を作成したり、下地補修の説明用にほかのマンションでの工事写真を挿入したりして、目で見てわかるような工夫が増えてきています。
しかし、配布資料と同じものをパワーポイントで見せるのは、どちらを見てよいかあいまいになるのであまりお勧めしません。
使うのでしたら、配布資料とは別の絵や写真を写すほうが効果的です。
理事会や修繕委員会に対して行なう進捗報告会議において画面を使用することも今ではかなり一般的になってきました。
工事前と工事後の写真、工程プロセスがわかる写真、問題箇所の写真、それを解決するスケッチ案やカタログの提示等々、画面を見せながらの説明はわかりやすいので大変有効です。
しかし、これもスムーズに画面を次々と出しながら上手に説明を加えることが大切です。
工事用のチラシ作成は現場での必須業務です。
同じようなチラシに部屋名や工区名を入れて少しずつ異なるものを作成するのはパソコンが得意とすることです。
でも、その現場に関係するメンバーがかつてほかのマンション工事の現場で作成したものの焼き直しに終わっていないでしょうか。
ときどき、筆者は、現場代理人がほかの現場に電話をして他例を送付することを依頼している場面に出くわすことがあります。
これはパソコンがまだまだ個人の技量の域をでていないことを示すものです。
会社をあげての体制作りが望まれます。
会社のデータベースにそれぞれの現場事務所からつなぐことができれば書式例やチラシ例を簡単に利用することが可能になります。
工事広報を作成して全戸に配布している工事業者がいます。
2週間に一度、工事の進捗状況をお知らせし、またその季節ごとのトピックスを掲載しています。
しかし、さすがにこれは毎日現場に詰めている監督の仕事ではなく、週に一度顔を出す担当者が、現場の仕事とは別に本社で作成しているようです。
親切でかゆい所に手が届く工事業者というイメージ付けに役立っているようです。
これは、それなりの要員を準備しないと不可能でしょう。
現場で同じことをしようとすれば工事管理業務がおろそかになることは目に見えています。
そうでなくてもパソコンの登場によって、「現場第一主義」が「現場事務所第一主義」になっている工事現場があります。ご注意ください。
また、毎日掲示する「バルコニー洗濯物干し情報」を、掲示に加えて、メール配信する工事業者が現れました。
これは、まず、メール配信を希望する場合に、区分所有者の皆さんからパソコンあるいは携帯電話のメールアドレスを通知してもらわなければなりません。
そして、毎日「何時に配信する」ということや「何を配信する」のかといった点を明確にした上で、希望者を募る作業が必要になります。
そして、毎晩きちんと、翌日の該当住戸のバルコニーの洗濯物干し情報を間違いなく配信しなければなりません。
これはどう考えても現場代理人の仕事ではありません。
しかし、逆に言えば、現場にいなくてもできる仕事です。
こうしたことがスムーズにできる工事業者はまだまだ少ないです。
「会社をあげてIT化を図る」という決意がなければそうした要員を確保することもまだまだ困難でしょう。まだ現れていませんが、工事中のホームページ作成と管理組合の工事委員会がメンバーになるSNSを連動させるIT環境作りも、ぜひ工事業者に挑戦していただきたい課題です。
目的は、工事をスムーズにすすめるための環境作りです。
ハードルは、委員会メンバー全員が、ほぼ毎日メールを読み返事を書く環境にあるかどうかです。
でも考えてみると、この課題は、工事業者ではなく、設計監理コンサルタントが手を出す領域の話かもしれませんね。
筆者は、現在ある工事現場で、委員会全員が参加しているSNSを運営しています。
でもホームページを作るところまでは行っていません。
今後の課題ですね。











